コンサル業界の提供価値の変化
コンサル業界の提供価値の変化
コンサル業界の今後について語られるとき、多くは「デジタルトランスフォーメーション」や「総合ファーム化」といった動きが取り上げられることが多いと思います。
コンサルティングファームは支援会社ですので、クライアントである事業会社の変化も含めて考えていく必要があります。
今回は、そのような観点も踏まえ、コンサルティングファームの今までとこれからについて、私の考えを述べたいと思います。
コンサルティングファームの価値は今も昔も変わらない
コンサルティングファームは、支援会社の一つであるということは以前ご紹介しました。
その価値は今も昔も変わらず、クライアントが自分たちの事業拡大を目指すうえで、自分たちだけでは解決困難な課題に対して提案や支援を行うことです。
より具体的には、クライアントが自分たちだけではできないこと、もしくは自分たちだけでは無駄が多い(スピードが遅い、コストがかかるなど)ことをクライアントに代わって行うことです。
その多くはコンサルティングファームは知っているがクライアントは知らないという情報の非対称性に基づいているものが多く、またコンサルティングサービスは各々のファームが持っているフレームワークをカスタマイズしながら提供されることが多いことも付け加えておきます。フレームワークは簡単に言えば問題解決の型ですが、ITパッケージも含みます。コンサルティングファームはフレームワークを使うことで、(一定の能力があれば)誰でも、より早く、より高いクオリティでコンサルティングサービスを提供しています。
クライアントや世の中の変化により、求められる内容が変化している
その一方で、クライアントがコンサルティングファームに求める仕事内容は変わってきています。
ひと昔前のコンサルティングファームのプロジェクトといえば、中期経営計画、事業戦略やあるべき組織体制を描く、いわゆるピュア戦略が中心でしたが、今ではそれは大きく変わり、最新テクノロジーの活用や経営体質の(実行まで含めた)改善が中心となりました。
クライアントである事業会社側にピュア戦略のナレッジが溜まってきたことで、そこに情報の非対称性が生じづらくなってきました。各社は長年コンサルタントを活用してきたため、あるいはインターネット等で情報に簡単にアクセスできるようになったため、わざわざ事業戦略等をコンサルティングファームに頼まなくてもよくなってきました。例えば、マッキンゼーの「7S」やBCGの「PPM」などはコンサルタントでなくても知っている方が多いと思います。また、数が減ったばかりでなく、敢えてコンサルティングファームに頼む戦略案件は、大変レベルが高いものになりました。
このように、ピュア戦略が減ってきている一方、最新技術の活用や経営体質の改善のニーズは伸び続けています。
日々アップデートをしている最新技術には常に情報の非対称性が発生しますし、事業スピードが求められる世界では経営体質をスピーディーに改善し続けることは企業にとって必要不可欠なためです。
しばらくは、 「働き方を変える」を起点に案件が拡大する
コロナ禍により、通勤やオフィスでの物理的な接触を避けなければならない状況となりました。そのため、今後、日本においても「働き方改革」が具体的に進んでいくことになります(コロナ禍の前も「働き方改革」は叫ばれてはいたものの、本気で取り組む企業はあまり多くありませんでした)。
今のところ、日本企業は欧米のようなリストラではなく、雇用を守りつつ内部留保を切り崩すことでコロナ禍を耐えていますが、「働き方改革」を推進しなければ事業継続が難しくなるでしょう。少なくとも成長は著しく鈍化します。
このような背景から、日本企業も「働き方改革」そのもの、そしてそれを起点としたDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進せざるをえなくなってきています。私も何人かのコンサルタントから、いままで「働き方改革」に興味をあまり持っていなかったクライアントから相談を受けたという声を聞いています。
「働き方改革」というと、「どこでも働ける」というワークプレイス周りが注目されがちですが、実は事業戦略や組織そのものが大きく変わる、まさに改革です。
例えば、対面での営業/接客スタイルから、非対面の営業/接客スタイルとするとき、オンライン営業ツールを使えさえすれば解決するというわけではありません。非対面でいかにリードを獲得・育成していくかの見通し、つまりカスタマージャーニーの見直しはもちろん、場合によっては事業の根幹である価値提案そのものが変わります。
また、いままで何となく本社機能としてもっていた業務も、本当に本社機能として必要なものは何かを見直す必要があります。そして、ワークプレイスが社内にとどまらないことを前提としたセキュリティやコンプライアンス、ガバナンスの再構築を進めていかなければなりません。
このように、「働き方改革」は、ワークプレイスを起点とした企業全体に関わる大きな変化であり、またテクノロジーを用いた新しい取り組みであるため、コンサルティングファームに依頼する企業が増えていくことが予想されます。
今後はテクノロジーの知見とビジネスへの理解の両方が、コンサルタントに求められる
リーマンショック時と同様に、今回のコロナ禍によって一時的に案件が減少したため、採用の中心は即戦力であるコンサルティング業界経験者となり、中でも、短中期的な売上貢献ができるマネージャー以上の上位職の方における採用が活発になりました。また、1-2年前から続いていた未経験採用の鈍化も加速しました。
しかし、直近では回復基調にあり、各ファームともDX周りの案件の増加やその先の流れを見据えて、ポテンシャル層も含めたテクノロジーに強い人材の確保に注力しはじめています。
DXの流れの中では、テクノロジーの知見とビジネスへの理解の両方が、コンサルタントに求められることになります。テクノロジーに強い、またはビジネスに強いコンサルタントは珍しくありませんが、両方に強いコンサルタントとなると稀有な存在です。そのため、未経験であってもテクノロジー知見を有し、ビジネスサイドに対して強い興味があるようなポテンシャル層の方はより活躍していくと思います。
冒頭で述べたように、コンサルティングファームに求められる価値は昔も今も変わらず、クライアントが自分たちの事業拡大を目指すうえで、自分たちだけでは解決困難な課題に対して提案や支援を行うことです。
その一方で、世の中の変化により案件自体は変化しています。今回のコロナ禍はとりわけ大きな変化ですので、しばらくはDX案件が大きなテーマとなりますが、5年後には別のニーズが中心になっているでしょう。
直近では経済産業省から昨年末に発表された「DXレポート2」によれば政府もこの動きを後押していくことにより追い風になっていくと思います。
中長期で見た際にどの程度デジタル/DX化が進むのかによって変わることはあると思いますが、今後の案件の例としては、蓄積されたデータを活用した事業創出や業務改善などが増えていくことも想定されます。
コンサルタントとして結果を出し続けるためには、このような世の中の変化に敏感に、そして柔軟に対応していくことが求められます。そして、何より大切なことは、それらを楽しめる価値観を持っていることです。コンサルタントに関わらず、価値観が合う業界・職種で働くことは活躍する上で最も重要なことです。
今回の記事が、コンサル業界で活躍されている、もしくはこれから活躍されようとしている皆様に少しでも参考になっていましたら幸いです。