シニアマネージャー/ディレクターの歩み方

2022.12.02 コンサル業界でのキャリア

シニアマネージャー/ディレクターの歩み方

今回は、コンサルタントの職位のうち、「シニアマネージャー/ディレクター」について、その役割やパフォームするための心構えや行動などを紹介します。

コンサルタントの職位は、アナリスト/アソシエイト、コンサルタント、シニアコンサルタント、マネージャー、シニアマネージャー/ディレクター、パートナーの6つに大きく分けることができます。各職位はファームによって呼び名が異なりますし、アソシエイトとコンサルタントの間に、シニアアソシエイトといった職位を置いているファームもありますので、おおよその分類と解釈していただければ幸いです。

この記事をお読みいただくことで、コンサル業界に興味がある方にとってはシニアマネージャー/ディレクターがどのような職位なのかを把握できると思いますし、これからコンサル業界で働く方にとっては働く上で気をつけるべきことや心がけることの具体的なイメージが湧くと思います。また、既にコンサル業界で働いている方にとっても、今抱えている課題のヒントを得ていただけるよう、シニアマネージャー/ディレクターについて解説します。

シニアマネージャーの役割

さて、シニアマネージャー/ディレクターのイメージを一言で言うと、「パートナーの右腕」です。パートナーは、各プロジェクトの最終責任も持ちながら、プロジェクトの創出や拡大(セールス)、採用、育成のバリューチェーンを循環させていく役割を担います。その中で、シニアマネージャー/ディレクターはプロジェクト周り、つまり複数プロジェクトの管理と新規プロジェクトの創出を中心にパートナーの右腕として活躍することが期待され、ビジネスKPI(売上や利益への貢献)を負うことになります。また、複数プロジェクトを管理するため、そして自らがセールスにより注力するために、マネージャーの育成にも力を入れる必要があります。

対クライアントという観点では事業部長〜役員などCXOクラスとコミュニケーションを取りながら仕事を進めます。

シニアマネージャーが持つべき心構え

続いて、シニアマネージャー/ディレクターとしてパフォームするための心構えを紹介します。

【シニアマネージャー/ディレクターが持つべき心構え】

  1. デリバリーをしない
  2. 自分の分身をつくる
  3. プロジェクトから染み出していく

さて、各心構えの詳細に進む前に、次の職位であるパートナーの役割を簡単に確認します。パートナーはコンサルタントとしての最高職位であり、ファーム内のあらゆる業務のトップを担います。そして、ビッグクライアント(ファームの重要顧客)を持っていることがほとんどです。ここで一つ留意したいことは、「パートナーだからビッグクライアントを持っている」のではなく「ビッグクライアントを持っているからパートナーになった」ということです。

つまり、シニアマネージャー/ディレクターからパートナーになるためには、ビッグクライアントを任せてもらえるか、もしくは自分自身でビッグクライアントに育てるか、そのどちらかが必要ということです。

このビッグクライアントを持つということをゴールとして、以下の心構えをお読みいただくと、より理解が深まると思います。

例えば、「デリバリーをしない」のは、(もちろん、マネージャー以下の育成のためという観点も重要ですが)セールスに集中できるようにするということが一番の目的です。

「自分の分身をつくる」というのも、同様の目的ですし、更に言うと、自分がパートナーになったときのシニアマネージャー候補を育て始めるという意味合いもあります。その上で、「プロジェクトから染み出していく」はどのようにクライアントをビッグクライアントに育てていくのかについての項目だと考えてください。

1.デリバリーをしない

マネージャーを育成する上でのポイントはいくつかありますが、中でもマネージャーにプロジェクトを任せきることが最も重要です。「マネージャーの歩み方」でも部下にできる限りタスクを任せるべきということを書きましたが、シニアマネージャー/ディレクターでは更にデリバリーのすべてをマネージャーに任せる(自身はデリバリーしない)ところまで踏み込みます。

ただ、すべて任せるというのは非常に胆力が必要です。任せきると決めていても、ヒヤヒヤする場面に直面したとき、つい手を出したくなります。しかし、ここで手を出してしまうとマネージャーは育ちませんので、その気持をぐっとこらえなければなりません。こういった意味で、自身でデリバリーをしないというのは決して楽なことではなく、クライアントからのクレームが出ることも覚悟して仕事を任せなければいけません。

もちろん、マネージャーにプロジェクトをゼロから投げて放置というわけにはいきません。それではプロジェクトは失敗しやすく、マネージャーも育ちません。

はじめのうちは、クライアントミーティングに一緒に出席し、クライアントはどんな社風なのか、カウンターパートはどのような方なのか、言葉の細かい表現をどう理解するべきなのか、キーマンは誰なのか、なぜそのキーマンを抑える必要があるのかといったステークホルダーに対する理解を深めてもらいます。

その上で、プロジェクトの方針を明確にし、マネージャーと方向性を合わせます。ステークホルダーへの理解とプロジェクト方針が明確になることで、マネージャーとしてもどこに向かってプロジェクトを推進するべきなのか、プロジェクトメンバーにどのようなスキルやマインドセットを身につけさせるべきなのかが分かり、行動の方向性が定まります。

プロジェクトの状況やマネージャーが抱えている課題を吸い上げる仕組みも作っておく、ということも忘れずにしておきます。マネージャーが行き詰まっているときには方向性を示してあげたり、ときには具体的な策を授けたりすることも必要です。また、解決のための期間を定めてマネージャーに伝え、それまでに解決できないようであれば自身がデリバリーに入るということもやむを得ません。 しかし、基本的なスタンスは「デリバリーをしない」であることは変わりません。問題が解消された段階で速やかにマネージャーにプロジェクトの主導権を渡すようにします。

2.自分の分身をつくる

マネージャーとコミュニケーションをとるときには、「自分の感覚をうつす」ことが重要であり、そのためには非効率なコミュニケーションが必要であるということを念頭におきます。

マネージャーまでの職位の育成は、コンサルタントのベースとしてのマインドセットやスキルの伝達が中心であり、これらはある程度一般的な型があり、ロジカルに伝えることができます。

その一方で、マネージャー以上の育成においては、セールスの手法などの一般的な型がある部分も残りますが、型がない感覚的なナレッジも増えてきます。

感覚的なナレッジは言葉でロジカルに伝えようとしても中々うまくいきませんので、非効率に感じるかもしれませんが、腰を据えて1対1で対話を深めていったり、背中を見せる(良い見本を見せる)ほかありません。

1対1で対話を深めていく中で、言葉の裏にある想い表現できない感覚が少しずつ相手に伝わっていきます。

背中を見せる、つまり良い見本を見せるというのは、例えば、クライアントミーティングに同席し、シニアマネージャー/ディレクターであるあなた自身がファシリテーションを担当するのも良いです。更にミーティングの後に、自分のファシリテーションとの違いや、あなたの各発言や振る舞いの意図についてマネージャーに質問する機会を作れば、あなたの行動や考え方への理解がより深まります。クライアントミーティングだけでなく、部下に対する接し方や、ドキュメンテーションでも同様に良い見本を見せることができます。

3.プロジェクトから染み出していく

シニアマネージャー/ディレクターは、プロジェクトの創出も行っていく必要があります。プロジェクトの創出は、既存クライアントにおける拡大と、新規クライアントの獲得に大きく分けられます。このうち、新規クライアントの獲得については「パートナーの歩み方」で詳しく伝えるので、ここでは、既存クライアントにおける拡大にフォーカスします。

既存クライアントにおける拡大については、「染み出していく」ということを意識します。「マネージャーの歩み方」の中で、「クライアントの”社内通”になる」で触れたように、プロジェクトをすすめる中で、カウンターパートが抱えている別の課題や、他の部門の様子も分かってきます。

また、プロジェクトで扱っているテーマから、その先で出てくる課題や、他の部門への影響も予測することができます。チームの方針や仕組みとして派生テーマがチームメンバーから「クライアントのの田中さんがこういった内容で悩んでました。」とボトムアップで上がってくるようにできると、より多くのプロジェクトの種が集まってきます。

ところで、派生テーマに対するソリューションがファーム内になかったり、自分の専門外であったりする場合はどうするべきでしょうか。

あまりにファームや自身のケイパビリティから遠いテーマであれば別ですが、そうでないならば、オファリング(ソリューション)開発と、複数の専門性を備えるチャンスです。

新たなオファリングは自分のケイパビリティの結晶であり、武器です。一気にクライアントを増やす鍵にもなります。また、パートナーになるためには、一定の売上規模を維持する必要がありますが、その中でも、複数の専門性を備えることは安定という意味で重要ですし、業界という枠組みが崩れ、クロスボーダーが進むであろうこれからにおいては、複数の専門性を持っていることがむしろ必須になる可能性が大いにあります。

シニアマネージャー/ディレクターにおすすめのインプット

シニアマネージャー/ディレクターは、事業部長〜役員などCXOクラスとのディスカッションが基本です。自分自身がそのテーマの最前線にいることも珍しくないため、書籍からのインプットは限界を感じることが多いです。

そのため、自身の専門分野については、オファリング開発を進めたり、ファーム内の研究会を主催したりする中で、都度、企業のケースや学術研究を調べるといったインプットになります。

またこれまで何度も紹介していますが、専門分野以外の業界知見や世の中のトレンドを追うために、NewsPickのフォロー機能を使って情報収集をすることもおすすめです。また、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューも、ビジネスの話題を追えるだけでなく、過去の記事や論文も検索し閲覧できるので、効率よく知見を深められます。

終わりに

次の職位のパートナーは、採用や育成などの組織づくりも担う、まさに経営者ともいえる存在です。ただし、安定した売上をあげていくことがまずは必要です。

そういった意味で、シニアマネージャーの段階から、自分がセールスに集中し、プロジェクトを拡大し、ビッグクライアントを作り上げていける環境や能力を整えていくことが非常に重要です。

 

実際にシニアマネージャー/ディレクターとして働いている方やこれから働く予定の方は、この記事を日々の指針にしていただければ幸いです。また、コンサルティングファームに興味を持たれている方にとっては、働くイメージを明確にする助けになっていれば幸いです。

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